緋の砂(水戸もない, L同盟)

緋の砂
(水戸もない, L同盟)
【同人】

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暗闇の中で一人、幸村は立っている。――――立っているらしい。というのも、闇というよりは黒というほうが似合う空間で、上下の感覚が無いからだ。
足の裏に地面の感覚が無い。ただ、立っているような格好をしているから、立っていると思っている。目を凝らしても何も見えない。何も感じない。
それなのに幸村は、不安も不満もなく――――懐かしさを感じていた。
――――ここは…………。
浮かぶ疑問も黒に塗り潰される。赤い彼の鎧も、褐色の肌も、黒に塗り潰されずにいるのが不思議なくらい、黒しか無い。
――――ら、……き、む、ら。
どこかから、声が流れてきた。ひどく懐かしい気のする声音が、幸村を呼ぶ。
――――む、ら……ゆ、き、む、ら。
ぼんやりと、黒の中に赤がにじみ出てくる。それは、ゆっくりと人の形に凝った。赤い着物を来た童子。男にも、女にも見える。
肩まで切り揃えられた髪は漆黒であるのに、空間の黒からは浮いていた。肌は、白い。淡く光っているかのような肌が――――手が動くと、軌跡が線となって残るような気がした。
――――ゆ、き、む、ら。
唇が動いていないのに、幸村の耳には声が届く。
「そなたであったか」
幸村は微笑み、童子が伸ばしてきた手を取るために、腕を動かした。 

 

タイトル 緋の砂
サークル L同盟
作者 水戸もない
カテゴリー 乙女向け/TL
ファイル容量 656.59KB
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